オトナニナラネバ。

いい加減、大人にならねば……難しいけどね。

やよい軒でから揚げ定食と冷奴を食べた話。

怒涛の年度末と年度始めを無事に乗り越えた三十路男、池松ケイタ。
忙しさが落ち着き、久しぶりにのんびりとした休日を過ごしていた。

 

(から揚げが食べたいなぁー……)

ふと、から揚げが食べたくなったケイタは、やよい軒に入った。
やよい軒のから揚げ定食がおいしい」と聞いたことがあるからだ。
ケイタは、やよい軒でから揚げ定食を食べたことがない。
日頃から機会があれば食べようと思っていた。

 

やよい軒は食券制。最初に機械で食券を買う。

(から揚げ定食は690円か。まあ、そんなもんかな)

ちなみに、東京23区内では720円らしい。

 

ケイタが席に着くと、店員が近寄ってきて水の入ったグラスをテーブルに置いた。

「から揚げ定食ですね、しばらくお待ちください」

食券を確認した店員は、ケイタにそう告げて店の奥に戻った。

 

から揚げ定食がこないまま、そこそこ時間が経った。
だが、のんびり休日モードのケイタは、別に苛立たなかった。
それどころか、時間がかかっているということは、揚げたてが食べられるに違いないと喜んだ。

 

「お先に冷奴です」

店員がケイタの目の前に冷奴の入った小鉢を置き、そのまませわしなく店の奥へと戻っていった。

(そういや定食に冷奴が付いていたっけ)

ケイタは冷奴に醤油をかけて、ちびちび食べ始めた。

 

冷奴が半分くらいになった頃、から揚げ定食が運ばれてきた。

「お待たせしました、から揚げ定食です」

(……あれ?)

ケイタは戸惑った。
運ばれてきたトレーの上に、冷奴の小鉢が載っていたからだ。
トレーに載っている冷奴は、一口サイズ。
他方、先に運ばれてきた冷奴は、そこそこのボリュームがある。

 

こうなると、可能性は一つ……提供ミス。
先に提供された冷奴は、定食の小鉢ではなく、他の客が注文した単品の冷奴だったのだ。
それが間違ってケイタのもとに運ばれ、間違ってケイタが半分ほど食べてしまった。

 

ケイタは素直に店員に白状した。

「すみません、定食の冷奴だけが先にきたのかと思って、食べちゃいました……」

言葉にしてみれば、実にアホっぽい。
定食の冷奴だけを先に運んでくるなんてことがあるだろうか。

店員も戸惑っていたが、笑顔で「よろしければ、そのままお召し上がりください」とケイタに告げた。

ケイタは店員の言葉に甘えてありがたくいただいたが、単品の冷奴は大きく、かなり腹が満たされた。
冷静に考えて、このサイズが定食についているとは考えにくい。
なぜ何も疑問に思わなかったのかが不思議だ。

 

肝心のから揚げ定食は、にんにく醤油の味がしっかりついており、非常にケイタ好みであった。
やはり揚げたてで、「外はカリッと、中はジューシー」という最高のから揚げのコンディション。
から揚げには、塩こしょうのようなスパイスと、マヨネーズが付いてくる。
ケイタには「マヨネーズをから揚げに付ける」という発想がこれまでなかったが、試してみるととても気に入った。

 

やよい軒の定食は白いご飯がおかわり自由。それに、謎の漬け物が常備されていて、これがまたおいしい。

ケイタはすっかり満足して、やよい軒を後にした。

心の中で

(マジで冷奴を食べたのはわざとじゃないよ!? 単品で冷奴が売っていること自体、知らなかったし! たしかに定食の小鉢だけ先に提供するってのはおかしいよ? それに定食の小鉢にしてはデカかったし! でもね、その時は何の疑問も抱かなかったんだよ、本当だよ? 決して『おっ、店員さんが間違えて冷奴持ってきたぞ? よっしゃ、気づかなかったフリして食ってやろう!』って思ったわけじゃないからね! 信じてくれ!!)

と叫びながら……。